乳と卵
あらすじ。
東京に住む私の元に、大阪からホステスをしている姉の巻子とその娘の緑子が来た。姉は豊胸手術を受けるのだという。緑子は喋らず、なぜか筆談で会話をする。
(もうひと作品『あなたたちの恋愛は瀕死』も収録)
感想。
「私」視点で物語が関西弁で描かれ、喋らない緑子の手記が合間に入るという構成が面白い。
女であることの葛藤や苦労。というのは女性なら経験したことがある人は多いのではないでしょうか。
「私」と姉が2人で銭湯に行くシーンがある。銭湯に行こうと誘われたが、緑子は行かない。姉は豊胸手術前、浴槽にも胸をタオルで隠して入る。私も胸がぺたんこで、もっと前は誰にも体を見せたくなくて公衆浴場には行きたくなかったし、今でも胸はなるべく見せたくないので、このシーンは分かるぅ…と共感。
緑子の手記。
・あたしは勝手にお腹がへったり、勝手に生理になったりするようなこんな体があって、その中に閉じ込められてるって感じる。
・あたしはいつのまにか知らんまにあたしの体のなかにあって、その体があたしの知らんところでどんどんどんどん変わっていく。
・絶対に子どもなんか生まないとあたしは思う。
緑子の年齢が多分12〜14歳ぐらいだと思うんだけど、エヴァンゲリオンのアスカのトイレのシーンを思い出した。この感じって、見た目が男っぽいとか、積極的に男に生まれたかったっていうような感じではなく、女に生まれると乳房をはじめとする身体の女性らしさや、生理があるとか子どもを産むという卵巣機能が、評価されたり他人と比較されたり良いと悪いがあったり、そういうのが嫌だなぁってことじゃないかなと私は思う。
豊胸手術を受けようとしている、出産経験のある巻子。出産経験はない「私」。まだ生理の来てない、乳房が膨らみはじめた緑子。という登場人物が絶妙だなぁと思う。
ほんタメであかりんの言う、純文学の中で不器用な登場人物が何かを起こすシーンは、この作品では緑子と巻子が卵まみれになるシーンだと思うんだけど、緑子は母親が出産後に小さくなった胸をわざわざ手術を受けてまで大きくしたいのかと問う。緑子はこのシーンで初めて声を発する。最後まで巻子が豊胸手術を受ける理由の詳細は巻子の口からは描かれないが、「乳房を大きくしたいから」という以上の理由はないのかも。でも、女というものに葛藤してる緑子から、より女らしくありたいように見える母への抗議みたいなものなのではないでしょうか。プラス、反抗期もあって、こんなシーンになったのかなぁと思いました。